もくじ
音楽の力を信じて、未来のためにできること
さまざまな事情が重なり、私は子どもを授かることができなかった。
だから、未来の子どもや社会に自分なりのかたちで貢献したいと、ずっと思っていた。
思い出したのは、幼いころからずっとそばにいてくれた音楽。
泣いているときも、迷っているときも、音楽はいつも私を支えてくれた。
実際に、音楽は科学的にも、心や身体だけでなく、脳の発達にも良い影響を与えることがわかってきている。
言語の発達や感受性を豊かにする効果も報告されている。
─ 私はやはり、音楽の力を信じたいと思うのだ。
私は、音楽の力を信じている。

生徒の赤ちゃんとお母さん
ボストンのバークリー音楽院を卒業後、アメリカで幼児向けの音楽教育に携わり、インターンとして教育現場に入った。
対象は、なんと赤ちゃんから3歳児。
彼らはまだ、言葉もおぼつかない。だから私も、赤ちゃん語で教えることになる。
たとえば、「バーバー」「ブーブー」なんていう音を、リズムにのせて歌ってみる。すると、しばらくして赤ちゃんたちが、まるで答えるように、楽しそうに音を返してくれる。
音楽は、言葉を超える。

ピアノが弾けるようになった自閉症の子
その後、自閉症の男の子にピアノを教えることになった。
彼はレッスン中、窓の外を見て、道路標識の話ばかりしていた。
私はただ、その子の話を聞き、少しずつピアノに向かわせていただけだった。
3ヶ月後、その子のお母さんから感謝のカードをもらった。
「息子は、あなたのピアノのレッスンが大好きです。Thank you!」
私は驚いた。というのも、彼にほんの少し寄り添い、見守っていただけだったから。
9ヶ月後、その子は突然、ピアノを弾きはじめた。
無理だと思っていた発表会にも、参加できた。
音楽は、自閉症の彼の何かを変えたのだと思う。
今は、シニアホームでの演奏活動もしている。

音楽の力を感じるのは、子どもたちとの関わりの中だけではない。「音楽は高齢者にも良い刺激になるんじゃないか」と思ったのがきっかけ。
日本の音楽を紹介したいと思い、ユーミンやジブリの歌に加え、「与作」も披露する。
「ヘイヘイホー」と声をかけると、不思議なことが起きる。アメリカ人の高齢者たちが「ヘイヘイホー」と返してくれる。
眠っていた人も歌に参加し始め、みんな生き生きとした表情になる。
音楽は、眠っていた何かを呼び起こす。
輝いていた青春、懐かしい記憶、幼少期の想い出——
心の奥のほうで、そっと灯をともす。
言葉を超えて人と人をつなぐ力がある。
それは、赤ちゃんにも、自閉症の子にも、高齢者にも——誰にでも等しく届くもの。
私は、その奇跡のような瞬間に何度も立ち会ってきた。

これからも、音楽の力を信じていたい。
もっと多くの、あの瞬間に出会うために。
マイケル・ジャクソンが、音楽で世界を“Better Place”にしようとしていたように。
音楽の力を使って、世界をよりよい場所に。
それが、私の小さな活動の、いちばん大きな願いです。
